浄瑠璃と糸からくりの動き
浄瑠璃(軍術誉白旗鬼一法眼館之段) . 糸からくり人形の動き
 漢の高祖は三尺の劔を提て天下を治め張良は一巻の書を得て尚相の位に登る. 義経公が中央奥の下から静かに登ってくる.
 古の孫賓に水練等のきこくしに兵書を傳へたへたる斉の国を起こし今此の時に当れる哉我が日本の名将と仰がれ給う九郎判官源義経公. 雲道の位置につき頭を上げる
 平家の為に身をやつし終に素懐を遂げ給う言の葉草を書き残す. 体を左右に振って通路の中程に進み出る.
 頃は弥生の春の空かすみたなびく四方山の花盛りに野辺の草萌ゆる緑の湧く水も源清き流れの末行く衛床しき風情なり. 体を左右に振って頭を上下する.
 御いたわしや義経公御母君に別れてより鞍馬山東光坊の御元に忍びて人となり給う. 雲道の一番前まで進み出る.
 やがて源氏にひるがえさん心浮き立つ御出立肌には称りの御袷紅裾おの御着せなが糸敷き織の大口に薄緑と 体を左右させ頭も上下させる.後ろ向きに雲道の中程まで戻る.
 云う御はかせ,さも花やかなる有様は,心に天下を取りひしぐ威有て猛き優美の骨柄天晴名将と知られけり. 雲道の一番前にもどる.
 人目をしのぶ鬼一が館傍り見廻し小声になり「過ぎし頃姿をやつし吉岡法眼が館へ入り込み六陥三略の巻奪はんとちゞに心を砕る中見あらわされて是非もなく取り得ぬ事の残念さよ」 後ろ向きになって中程まで戻り,せりふに合わせて前や後ろに移動する.
途中両手を大きくまわす.
 鬼一が館を立ち退いて諸国の武士を味方に集め又もやここへ来たりしは「三略の巻奪わん為幸なるや娘の恋慕是屈強と忍び入り彼をすかして虎の巻盗み出させん若も又」 体を左右に振って雲道の中程で止まる.
 術違はば鬼一に逢ふて子細を語り虎の巻を渡さばよし否といわば打ち果して奪わんやと館の四方に目を配り暫したたづみ居たりけり. 雲道の途中で下の樋に降ろし,下遣いに変わる.
 そよ吹く風も身に染みて東雲告ぐる遠寺の鐘,明渡りたる都路を故郷へ帰る雁が祢の啼音もいとゞ哀れさを. 樋の一番前まで移動する.
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 今は我身と皆鶴姫色香もよしや吉野山. 皆鶴姫が右手より顔を伏せながら両手を上げて出る.
 花の面影柳の眉恋の闇路に我が館そっと人目を忍び出恋しき人の便りさへ泣いて暮らせし夢うつつ. 出入りを繰り返しながら,体を左右に動かしながら登上する.
 尋ね行かんと庭つたいつまづく石も縁のはし互いに見合わす顔と顔. 両手をおろして義経公と顔を合わす.
 「のふ,なつかしや我が君様去年の春より御行衛を尋ねさせても知ばこそ.何国へ忍ばせ給ふぞや私に斗り物思せ,むごいつれない胴欲」と. 義経公の前に進み出る.
 恨涙の真実は泣より外の言葉なし. 姫は泣きながらもどる.
 義経公さあらぬ体.
 「是皆鶴姫日頃の情は嬉しいが我も今は浪々の身の上且は所存の儀も有ればそなたの恋路叶へぬをかならず恨んで給るな」. 義経は頭を上下左右に動かし身振りをくわえる
 と聞くよりハット娘気に思いこんでも今更に何といらへも泣斗り漸々涙の顔を上げ「イエイエ仮令あなたが御いやでも片時忘れぬ自を御見捨給うは胴欲な」 姫はせりふに合わせて頭を動かす
何国の末の果迄も御連れなされて下さんせ,そもや目見得の其の日より可愛らしいと思い初め雨の降る程遣る文についに一度の返事もなく気強いが猶更に恋し恋しに身もやつれやせたは御目にはエゝマかからぬか. 姫は角を中心にして前にいったり後に下がったりする.
 あなたを退けて殿御とて外にはないと心の製紙くくり枕のかり寝のひまは泣じゃくり若や私が御いやならいっそ殺して給れと涙ながらにかきくどく.
 遉に猛き名将も娘心の不便さにいらいも更になかりけり,良有って声はげまし
 「其程迄に親切あらば其の子細云って聞かせん.
 いかにもそちが推量の通り我こそは源家の嫡流源の義経なるぞ御事が父吉岡法眼源氏譜代の侍なりしが今は平家の恩を請たる不忠の武士其の娘のそちなれば叶わぬ縁とあきらめよ」.
姫は女らしくこきざみに体を動かす.
義経は左手を挙げて姫の方に向き直り,
右手をスッと上げてすぐ下げる.
義経公はせりふに合わせて頭を動かす
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 「去り乍ら一つの功を立るなら又も思案の有るべきか」と物好なる一言に聞より取り出す錦の帛.
 「父様の仰には此虎の巻は源氏相傳の宝なり我預りの身ながらも傅ふべき源氏の御公達に逢ひ奉らずそちが心を身定めて興る故心をかくる御方と夫婦となり聟引出に差上げよとそれと云ずに下されし」 せりふに合わせて頭を女らしく小刻みに動かす.
 と皆迄聞かず義経公「さすれば鬼一は源氏方」
 「そんなら叶えて給るか」
 「ホホ云迄もなく二世の夫婦と」.聞くより早く御巻物を若君に奉る. 義経はせりふに合わせて頭を上下左右に振る.
姫は義経に近づく.
 義経公押戴き.
「此の一巻が手に入る上は平家を亡ぼし世を源に返す事掌心の中にあり大願成就時至れりハァハァハァハァ有難し悉なし」
姫が前に進んで義経に巻物を渡す.
義経公両手を上にあげたり横に広げたりして感謝の動作をする
 天を拝し地を拝し悦び給う折からに遙かに聞こゆる陣太鼓 体も左右に振り前後に動かして喜びを表す
陣太鼓の音がする
 討手の大将広盛が大身の鎗を引提げて大音声に「ヤァヤァ義経.
 此家の内に入込む由忍びの物の知らせに依って六原殿の下知を受け幡摩の大棣広盛が召捕りに向うたりサァ尋常に縄懸るか但し又首にして立帰らんや.返答はサァサァ何と何と」とののしったり義経公完示と打笑給い.
広盛公が両手を広げ鎗を片手に勇んで出てくる.
角で大きく頭を上下左右にふって武者ぶりし,両足を踏み込んで勇ましく義経公に詰め寄る.
 「ヤァヤァぬかしたるな幡摩の大棣おのれ迚も打捨て置けぬ平家の餘類奥州下向の首途に討殺は安けれど助返すは鬼一へ恩義早立帰れうっそり奴」 義経公が右手で追い返す仕草をする
 と,はったと睨む眼力に大棣広盛せゝら笑い「ウフワハウフワハウフワハ.
 清盛公の仰を受け討手に向しそれがしに返れなぞとは事可笑や皆鶴姫もようく聞けいつぞや六原殿の御所に於いて虎の巻なぞとにせ物差上げ.
 清盛公にはさんざんの御立腹おのれちょこざいなる人畜生奴義経迚も討洩されの源氏の小冠者広盛が手にかけくれんサァ尋常に首渡せ」と大身の鎗を追取ていざこい勝負と詰め寄せたり.
広盛公が体を左右に振ってせせら笑う.
頭を振りながら大声を張り上げる

広盛公が鎗を構えて義経公に詰め寄る.
 義経公騒がせ給ず「ヤァヤァ皆鶴姫親に習ひしそちが手の内,大棣を討ち取るは義経への貞節心得たるか」 義経は姫と話をする
 と夫の詞聞より姫は勇をあらわし「ヤァヤァ広盛女ながらも鬼一が娘我君様への初見参自が手の内見せう覚悟志やれ」. 姫は両手を上にあげ戦う意思を示す
 と,用意の懐釼さか手に持ち手練の尖先電光石花. 懐中より短刀を取り出して広盛公に飛びかかる
 見より広盛とびしさり. 広盛公とっさに飛び下がる
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 「ヤァこしゃくなる女良さい奴」と鎗の柄長く突懸くれば受つ流しつチョウチョウチョウ一離一合千変万花秘術をつくす戦ひは,龍虎の勢い目覚ましく. 両者激しくぶつかり合いながら戦う
 討込む鎗を切拂れすぐに引抜く刃の光り互の尖先ひらめき渡るつまづく拍子に切立られ薄気味悪く広盛は一たん斗り引退く. 広盛公は鎗を切り払われ太刀を持って戦うが,姫に切り込まれ逃げ帰る.
姫は小刀を持った右手をあげてかまえる
 何国迄も追懸行を義経公声かけ給ひ「逃る者に目なかけそ長追無用」と押止め. 義経公頭を少し動かして両手をあげて姫を制する.
姫は両手をあげなおも追おうとする.
 「遉は吉岡法眼が娘天晴の働き出かされたり」 義経公は頭を動かし姫をほめたたえる.
 と賞美の詞聞より姫は今更に何と云居る詞さえ嬉し涙に暮いたる. 姫はうれし涙を流し出入りする
 又もやかけくる大棣広盛女童に打負ては無念無念とはがみをなし声張上げて. 広盛公が再度登上,角で体を激しく動かす.
 「ヤァヤァ義経鬼一も迷途へ首途させん女も共に討果ん覚悟ひろげ」と呼ったり. 広盛公せりふに合わせて頭を動かす
 姫は見るより飛びかかるを透さず受け止め刎返す直に付入る虚々実々火花を散らして戦ひしに. 姫と広盛公が激しく戦う
 コリャ叶ぬと広盛が後をも見づして逃げ失せたり. 広盛公は後をも見ないで退散する
 「ホホ出かした出かした我は是より奥州の透衡を語ひ源家一統の世となさん汝は暫く都に止まり,鬼次郎,鬼三太諸共に軍勢催促の方便をなすべし」 義経公姫に向かって話しかける
 「イエイエ自が都に残りなば虎の巻紛失の云訳立まじ,さすれば父様の御難儀仮令心は源氏にもせよ一日にても平家の録を食し御父上大切なる一巻を娘が取って逃げ失せしと申上げなば, 姫が角でせりふに合わせて頭を動かす.
ゆるやかな動き
 平家への義儀も恩義も立つ道理此雰の道理を聞き分けて」女の一筋恋の罠かけて志がらむ縁の縄放れかたなき折からに. 姫は角,正面を出たり入ったりする.思案の表情
 御大将を迎ひの人数イザ御立と声々に,義経公は喜悦の眉,是より直に旗上げし諸国の源氏へ軍勢の催促状を告知らず,不日に平家を追討し源氏の御代の栄を見よと. 義経公と姫がたがいに左右に体をふり出たり入ったりする
 義経公の劔の徳,鞘の尾に有る虎の巻一騎が千騎伊勢駿河. 広盛が後に倒れると桜の花に変身する
 亀井片岡武蔵坊,有力憎る美吉野の花は. 姫も桜の花に変身する
 桜木人は武士. 義経も桜の花に変身する
 千人切りの千の字を千に重ねて国津民萬々歳と安穏に納る御代こそ目出度けれー
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