蛭ヶ谷の田遊び 次第
番外 矢納め 赤装束に縞袴を着け,綾傘をかぶった田打ちの親方が,弓と矢を持って社殿に入ります.社殿で和紙に三重の輪を描いた的に向かって矢を射ます.
01 ほた引き 直径約5センチ,長さ約24メートルの藁縄を輪にしたものに,直径約30センチ,長さ約70センチの杉の小枝を束ねて作った「ほだ小僧」をくくりつけ,輪の中に親方が入り,周りを若者が縄を持って取り囲みます.
親方が「何を引く,ほた引く,西之宮太神宮のほた引く」と唱えながら左回りに回ります.その間若者たちは縄を持って反対の右回りにゆっくり回ります.親方が唱え終わると若者たちは右回りに数回走り回ります.同じように親方が次々に近隣の16の神々を呼ぶと,その度に若者たちは親方の周りを走り回ります.
この「ほだ小僧」は後の田植えにも登場し,終わると社殿脇の桜の木にくくりつけられます.
02 里田打ち 田に見立てた樽を中心にして,若者たちが10名ほどその周りを取り囲みます.鍬に見立てた新竹を樽にたたきつけながら「これは何処のおん田打ち」と唱えると,社殿前に立つ親方が
「西之宮太神宮のおん田打ち」と答えます.竹を取り替えて,若者たちが樽をたたきながら「これは何処のおん田打ち」と唱えると,親方は「山の神のおん田打ち」と答えます.
以下同じように,若者たちが樽をたたきながらの問いかけに,親方は次々近隣の16の神々の名を呼び上げます.
終わると,竹はすべておかがりにくべられます.
03 四方切り

本刀振り
赤装束に縞袴を着け,綾傘をかぶった舞人が右手の半開きの扇を右肩にかざし,左手の刀を左肩に担ぎ登場し,片足で跳んだり,両足で跳んだり「ちっくちっく」の所作をします.
次に扇を介添人に渡し,刀を振り下ろしたり斜め後方にかざしたりして,本殿,柴燈,鳥居,庁屋の四方に向かって「四方切り」の所作を行います.
扇を介添人から受け取り,「ちっくちっく」の所作をし,最後に扇を介添人に渡し太刀を回します.
太刀を回し終えると,扇を再び受け取り,太刀を両足の間に挟んだまま退場します.
04 四方切り

本刀振りもどき
赤装束に縞袴を着け,綾傘をかぶった舞人が右手の半開きの扇を右肩にかざし,左手の木刀を左肩に担ぎ登場し,本刀振りの所作を真似して演じますが,本刀振りとは
 本刀と木刀が違う.
 四方切りの方向の取り方が逆.
 ステップの足の順序が逆.
 斜めに刀をかざす順番が逆.です.
また,刀に鼻油を付ける真似をしたり,目釘を確かめる仕草をしたりします.
05 四方切り

長本刀振り
赤装束に縞袴を着け,綾傘をかぶった舞人が,長い柄の先に刀を付けた長本刀を肩に担ぎ,半開きの扇を右肩にあてがいながら登場し,おかがりの前で舞います.
06 四方切り

木長刀振り
赤装束に縞袴を着け,綾傘をかぶった舞人が木製の長刀を持って登場し,おかがりの前で舞います.
07 四方切り

杵振り
赤装束に縞袴を着け,綾傘をかぶった舞人が杵を持って登場します.これも,採り物が杵に変わっただけで,振りは長本刀振りとよく似ています.
08 . 獅子 現在は行われていません.獅子頭も失われ,いつ頃から行われなくなったか,その理由などはわかっていません.
09 田打ち 赤装束に縞袴を着け,綾傘をかぶり襷掛け素足に草履を履きます.この田打ちは1田打ち,2昼飯,3田打ちの三部構成になっています.
【1田打ち】最初に鍬を担いだ親方が本殿の前に立ち「春の雨は降ったり 木の芽はさいたり 田はつはったり ……」と,唱えた後,「やあい徳長」の親方の呼びかけに答えて徳長二人が登場します.一人目の徳長は酒徳利を,もう一人の徳長は冷や飯を山盛りに盛り付けた椀を入れた桶を,担いだ鍬の柄に掛けて登場します.
荷物を下ろし,歌を唄いながら本殿前の石段を田に見立てて,上の段から鍬を石段に振り下ろして,引きずりながら降ります.三回繰り返した後,昼飯になります.
【2.昼飯】おかがりに向かって,3人が茣蓙の上に座ります.3人とも両手を組み合わせて「お膳お膳」と三回叫ぶが,お膳は出てきません.そこで,徳長二人がそれぞれ役割を分担します.
まず,一人の徳長が,桶からお膳を取り出し,唾を吹きかけ袴の裾で拭いて,地面に置きます.すると,もう一人の徳長がお膳を親方の前に置きます.同じ事を繰り返して3人の前に膳が置かれます.
同じようにして箸,おかずのカジメを配り終えます.
次に,桶からご飯を山盛りにした椀を取り出し,本殿に向かって椀を高く掲げ親方の膳に置きます.次に取り出した椀は鳥居に向かって,最後に取り出した椀はかがりに向かって高く掲げて各徳長の膳に置きます.配り終えて,据え役も自分の席に着きます.すると,まずカジメをちぎって高盛飯の上に三切れおき,箸で手のひらに取り一気に食べます.
次に,酒盛りになります.徳長が徳利を持って,親方ともう一人の徳長にお酌をします.親方・もう一人の徳長と交代しお酌をして,酒を酌み交わします.
【3.田打ち】昼飯も終わり,再び田植えに戻ります.本殿前の石段を田に見立て,上の段から鍬を石段に振り下ろして,引きずりながら降ります.三回繰り返した後退場します.
非常に長く,約1時間かかります.
10 牛ほめ 親方が社殿前に立ち,徳長を呼びます.出てきた徳長は苗代草を忘れたので取りに戻ります.今度は徳長は,天秤棒に苗代草二束を下げて担いで出てきます.
次に親方は牛を呼ぶと,牛役が出てきて,庭に置かれた樽の上に腹ばいになります.親方は懐から牛の鞍餅を取り出し,牛の背に乗せます.親方は牛を洗います.
親方と徳長は,両側から牛の背に乗せた鞍餅に両手をついて牛を褒めた後,牛を庁屋に返します.
11 鳥の口 親方と徳長は杉の葉の束(苗代草)を間に置いて向かい合います.唱えごとをいいながら,親方が懐から早乙女餅を取り出し徳長に渡します.徳長はこれを食べます.
12 御草押し 親方・徳長二人は向き合いながら,苗代草である杉束を持って,左右に振ります.徳長の「こりゃどこの御草押す」の問いかけに,親方は「西之宮太神宮の御草押す」と答え,徳長の同じ問いかけに,次々に「山の神…」「大白山…」と答えていきます.
13 麦搗き 赤装束に縞袴を着け,綾傘をかぶった舞人が孕女の手を取って登場し,庭に置かれた臼に見立てた樽を挟み,向かいあって座ります.唱えごとをいいながら,交互に杵で樽をつきます.
14 麦洗い(魚釣り) 二人の男が,庁屋の前で釣り竿を持って,立ちます.樽の上に,釣り糸の先に付けた木製の魚を乗せます.孕女が魚を手に「上の瀬も淵なり,下の瀬も淵なり,あなむつかしの殿ばらたちや」というと,男たちは「西之宮大神宮の掛け魚を釣って参り候」と唱えて魚を釣り上げます.
15 田植え おっとう(綾笠の男),おっかあ(孕女),守(ほた小僧を背負った者),早乙女(菅笠をかぶった者)三人が輪になって田植えをします.
おっとうは鍬をもち田をならします.他の者は杉の小枝を持って,歌いながら杉の葉をむしって地面に撒きます.時々杉の葉を後ろに向かって撒きます.
16 稲刈り 菅笠をかぶった男三人が,手に木製の鎌を持ち,そのうちの一人は酒徳利を天秤棒にぶら下げ肩に担いで登場します.三人は本殿前の石段に向かって並び,鎌で稲を刈る所作をしながら,「秋の田の 秋の田の 刈り分け行けば下葉なる.…」と歌います.最後に,そのうちの一人が「酒買いに行こう」といって,三人とも退場します.
17 . 蓬莱山 明治の廃仏毀釈以来,中止されています.
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